炎の中の行進 短編小説

Marching in the Fire

地下鉄に乗ろうとして、キップを買いホームに向かおうとしたら。何百人者人たちが群れをなして、私の方に突進してきた。

私はかろうじて、脇の通路に逃げ込んだ。

何でこんなにも人がいるのだ。緊急事態宣言が出ているというのに。自分の乗る電車にはこのままでは乗れそうもない。みんな普通に歩いている。急いでいる様子はないが、何せ通路いっぱいに一つの方向から私の行く方向から来ているので、私はどうすることもできなかった。しばらく待って通路が空くのを待つしかない。しかし、何百人という集団が次から次へとやって来て通路を反対方向に行くことはできない。

いつまで続くのであろうか。これでは電車に乗れないし、予約しておいた病院の時間には間に合わないかもしれない。

その集団には子供も大人もいる。まっすぐに横を見ることなく歩いている。話をしている人は誰もいない。速度はそれほど早くはない。表情はなきに等しいが、時折女性の話し声が聞こえる。

1人の子どもが躓いて転んでしまった。その子供は起き上がろうとしたが、後ろから来た人は、その子供を踏みつけ、前に進んで行った。その後ろから来た子供は、転んでいる子供の頭を右足でけり。にやりと笑い進んで行った。転んだ子供はぐったりと横たわり、動くことはできなかったが、次から次へと踏みつけられ、もう死んでしまったかのように見えた。

助ける者は誰もいない。私はその中に入って助けようとしたが、その人の波の中に入っていくことができない。

この流れを変えなければならないと思い私は辺りを見渡した。野球のバッドが見つかり、そのバッドを持って、その流れの中に入ってバッドを振り回した。2.3人殴り倒した。しかし、私がバッドを振り上げたとたんに、後ろから来た人にぶつかり体制を崩しその場に倒れ込んだ。私の頭はけられ、身体は踏みつけられ立ち上がることはできなくなった。

大きな声で、止めてくれ、と叫んだが、通路が人でいっぱいなのは、依然として続いていて誰一人として聞こうともせず、子供と私は踏みつけられていくことを止めることはできなかった。

このまま死んでしまうのではないかと思った。ポケットの中のスマホを取り出して電話で助けを求めることすらできなかった。通りすがりに横腹を思い切りけられた。頭は靴で何度も踏みつけられていたので、血が吹き出ていた。子供ももはや動くことはできないようだった。子供は死んでしまったと思った。次は自分の番だと思いながら、意識が遠ざかっていくのを感じた。

しかし、私は転げるようにしてその集団から抜け出すことができた。通路は依然として人が一方から一方方向に流れている。そこから抜け出した、別な通路には誰一人いなかった。

這いながら灯油缶がある所まで行った。タバコは普段は吸わないが、今日は病院での待ち時間が長いだろうと思い、ライターを持っていることに気づいた。灯油缶にしがみついた。灯油缶のキャプを外し、人が絶えない通路に届くように、灯油缶を倒した。灯油が、通路の中に流れ込んで行った。私は持っていたライターで火をつけた。

火はたちまち燃え盛り、人ごみの中に火が入っていくのを見た。

私は、通路が途絶えると思った。灯油の火が人の体に入り込み、人を焼き尽くすと人はいなくなると思った。

しかし、火は燃え盛りどんどん火が広がっていったが、その炎の中で人は何も感じることもなく歩き続けていた。大きな人の波は炎の中でさも何も変わることはなかった。

その時、「何をしている。」という声が聞こえてきた。警官だった。

「殺人の容疑で逮捕する。」と手錠を後ろ手にかけられた。

子供を助けてくれと頼んだが、子供はもう火の中でいなくなっていた。

私は子供を救い出すことはできなかった。しかも、灯油をまいて殺してしまった。警官の力は強かったが、私はその火の中に転がるようにして炎の中に身を投じた。遠くで警官が私の方を見ていた。炎は燃え盛り、その炎の中で沢山の人たちは未だに歩き続けていた。

Marching in the Fire

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竹 慎一郎

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