神田沙也加さん、安らかに。残された者への苦悩。サムエル記下、アブサロムの死

神田沙也加さん、安らかに。

卒業式が終わると、卒業証書をクラスの代表者が全員分受け取り、それぞれのクラスに帰り、高校生活最後のLHR(ロングホームルーム)が行われる。

私は、出席番号の1番から教室の前に来て卒業証書を担任の手から一人ひとり手渡す。教室の後ろには、保護者の方が大勢みえられ、廊下側の窓も全て外し、廊下側からも教室の様子が見えるようにしていた。

その際、3年間の思いを、一言でも親や級友に話すように促していた。普段寡黙な生徒たちが、親に対して感謝の言葉を述べるとつい私ももらい泣きしてしまう。

思いもかけない担任への言葉も交じると、この生徒たちの前途が洋々と輝いているかのように見えるが、生徒たちの挨拶が終わると、副担任の先生から一言頂き、最後は担任の言葉でそのLHRは終了となる。

私は数えてみると、短い教員生活で7回もの3年生の担任を受け持つことが出来た。最後の担任の言葉は、決まっている。経験が浅い時には20分間位は話したと思うが、慣れてくると10分で簡潔に述べようと思っていた。

「皆さん、ご卒業おめでとうございます。この日を迎えることが出来て本当に良かったです。皆さんの中には高校を卒業することがいかに大変か思いを巡らせる人もいると思います。まず、この3年間無事にこの日を迎えることは奇跡かもしれないと思って下さい。1年生の頃から何人の友達が去ったことでしょう。この世に生まれこれまで生きてこられたのはあなたたちの努力はもちろんあったことでしょう。でも、あなたたちのご父兄や友人たち、差し出がましいかもしれませんが、学校のこともあなたたちをここまで導いてくれたことを忘れないで下さい。今日は夕食の時に思い出話に華が咲くことでしょう。

最後に、私から皆さんへのお願いがあります。私は、あなたたちのお葬式には出たくありません。卒業後、わずか数か月である生徒が亡くなり、わずか数か月で同窓会が開かれたことがありました。もう2度とそんな思いはしたくありません。高校を卒業すると、帰省する度に、友人たちの死のことを耳にしたものです。車やバイクの免許を取るとそれだけ危険な目に合う確率が明らかに増えると思います。くれぐれも健康に留意して少なくとも、後ろに来ていらっしゃるご父兄の方よりも長く生きなければなりません。これだけは約束して下さい。ご父兄の方の死に直面することもあるかもしれませんが、子として立派にご父兄を天国に送りだすのもあなたたちの仕事だということを忘れないでください。絶対にご父兄の方よりも長生きすること。そして、私は転勤がありますので、この学校にはいないかもしれませんが、学校にも遊びに来て下さい。それでは高校生活最後のホームルームを終わります。

係からの連絡はありませんか?

もう今日で終わりですね。この言葉も今日で最後です。

それでは、委員長号令をお願いします。」

委員長は大きな通る声で、「起立」、全員が起立する。いつものホームルームとは違っているかのように皆生き生きしているように見えます。「さようなら」

あの時から何年経ったのか分かりませんが、今まで生徒たちの葬儀は幸いにも開催されていないと思われます。

ウィリアム・フォークナーの作品の中に「アブサロム、アブサロム」という作品があります。フォークナーは、旧約聖書のサムエル記下からこの題名を取りました。わが子、アブサロムを殺された父、ダビデはこう嘆きの言葉を発するのです。

「わが子、アブサロムよ。わが子、わが子アブサロムよ。ああ、わたしが代わって死ねばよかったのに。」(日本聖書協会版より)

アブサロムの死の原因を作ったのは父、ダビデにあるのですが、この箇所は生徒たちには決して言えなかった箇所です。しかし、若い人の死に際して思い浮かべる言葉です。

アブサロム – Wikipedia

私には2人の子供がいます。2人とも元気です。しかし、この2人の前に2人の命を失いました。神がダビデに与えた試練を、私自身消すことは出来ずに死ぬまで引きずっていくことでしょう。

「わたしが代わって死ねばよかったのに。」

沙也加さんのご両親、そして、ファンの方々、そのお辛い気持ちははかることは出来ないと思います。

どうにかこうにかして寿命が尽きて息が出来なくなるまで生きてください。

岡田有希子さんの死も衝撃的でした。死はいつも隣り合わせにあると思います。

生きている限り人間は死に囲まれながら生きていると言っても過言ではないと思います。

神田沙也加さんのご冥福をお祈り致します。

そして、ご両親のお気持ちを察するといたたまれない気持ちになり、こんな文を書いてしまいました。どうぞお許し下さい。

神田沙也加さん、安らかに。

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竹 慎一郎

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