希望をなくした子羊

マリアの問いに士郎は、僕は舟には乗らない、と答えた。

うま、とら、くじゃく、ひつじ

この4つから選ぶように言われるのだが、士郎はもう舟には乗らず、地球の最後を見届けることを選んだ。

このセリフは、反則だと私は思ったのだが、そこは脚本家の感性が光る一節であろう。

私も舟には乗らないかもしれないと当時は思っていた。

人は自らが進んで行く過程が絶望で満ち溢れているとしたら、希望を失い死を考える。

士郎はなぜ記憶喪失の状態で、そういう答えをしたのか分からない。

彼には希望はあったはずだ。

しかし、その一方で行き場のない現実と未来を見据えていたのかもしれない。

彼女は言った。シンナー売っているのよ、お金ある?

私は酒でおかしくなったことは数えきれない位あったが、シンナーは吸ったことは一度もなかった。

売人のお兄さんは私を見て、おたく察じゃない?

と言った。私は警察官に見えたらしい。

茶色で中の見えないスタミナドリンク、1本1500円か2000円位だった。はっきり覚えていない。

2本買って、新宿の街をシンナーをハンカチか何かで隠しながら吸った。

吸い方も彼女から教えて貰いその通りに吸ってみたのだが何も変化はなかった。

全く効かなかった。彼女も効いているようには見えなかったが、10代の頃を思い出しているようだった。

通行人と肩がぶつかった。

おかまの集団だった。5人くらいはいたと思う。

あなたたち誤りなさいよ、と絡まれ

あなたたち臭いわよ。シンナーじゃないの?ガキねー。

と言われ彼女がごみ置き場にビンを捨てるように合図した。

本物の警察官がやって来た。

警官は、シンナーはだめだけど、証拠がないから捕まえられないと言った。

ごみ置き場のビンはもう抜けてしまい証拠にはならないみたいだった。

私は無力な自分に道路にうずくまり、頭を道路にたたきつけた。

バカなことはやめなさい、もう済んだことよ。彼女は冷静だった。

シンナーは全く効かなかったので無性にアルコールを欲した。

浴びるようにウイスキーのトリスのミニボトルをあおった。

アルコールは何もなかったようにしてくれた。シンナーは果たして効くのだろうか。

今でも疑問だ。

シンナー吸う位なら、酒飲め!

と昔、先生から彼女は言われたことを話してくれた。

しかし、その時はもう私は行き場を見失った子羊同然だった。

希望は見えてこなかった。

 

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竹 慎一郎

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