ある日、仙台市の庭園で、若い女性がスエコザサの垣根の前に立ち止まっていた。
彼女の名前は藤沢彩乃(ふじさわ あやの)。彼女は大学院の研究室で植物学を専攻している。彼女は牧野富太郎博士の研究を尊敬しており、特にスエコザサに興味を持っていた。
スエコザサは彩乃にとって特別な存在だった。それは、彼女が幼い頃に亡くなった母親がスエコザサの名前を持っていたからだ。
彩乃は母の墓参りに来ていたのだ。
彼女はスエコザサの垣根を見つめながら、母のことを思い出した。
思い出すのは、母が庭でスエコザサを育てている姿だった。彩乃は母と一緒に庭で遊ぶのが好きだった。母はいつも優しく微笑みながら、スエコザサの世話をしていた。
彩乃は母の存在が彼女の植物学への興味を育てたと思っていた。母が亡くなった後、彩乃は一人で庭のスエコザサを育てるようになった。彼女は母の面影を感じながら、植物の成長を見守っていた。
彩乃は牧野博士の研究に触れることで、スエコザサについてさらに深く学ぶことができた。彼女はスエコザサの特徴や生態について熱心に研究し、その美しさに魅了されていった。
そして、彩乃は母の墓前でスエコザサの花を手に持っていた。彼女は花を墓石に寄りかからせながら、母に話しかけた。
「母さん、スエコザサの花、見てくれるかしら?私、お母さんの名前を持つこの花が大好きなの。母さんがいつも庭で育ててくれたから、私も大切に育ててきたの。」
彩乃の声は少しだけ震えていた。彼女は母の存在を強く感じながら、スエコザサの花を見つめた。
すると、その時、彩乃の目の前に一人の男性が現れた。彼の名前は横山拓也(よこやま たくや)。彩乃と同じ大学院の研究室に所属している。
拓也は彩乃に気づくと、微笑みながら近づいてきた。
「彩乃さん、スエコザサの花、綺麗ですね。」
彩乃は驚いたような表情を浮かべながら、拓也に声をかけた。
「拓也さん、なんでここにいるの?」
拓也は少し照れくさそうに笑いながら答えた。
「偶然通りかかったんです。彩乃さんがスエコザサの前で立ち止まっているのを見つけて、声をかけたんです。」
彩乃は拓也の言葉に嬉しさを感じながら、拓也に向かって微笑んだ。
「ありがとう、拓也さん。私、スエコザサが特別なんです。母の名前を持っているし、ずっと大切に育ててきたから。」
拓也は彩乃の言葉に少し驚いた表情を浮かべながら、彼女の手を取った。
「彩乃さん、スエコザサはあなたの心の中にも育っているんですね。私もずっとあなたを大切に育ててきたから。」
彩乃は拓也の言葉に心が温かくなりながら、彼と一緒にスエコザサの垣根を見つめた。
彼らの心は、スエコザサのように美しく、しなやかに絡み合っていった。
そして、彩乃と拓也はスエコザサの花を手にして、墓石に寄りかかる二人の姿が、穏やかな風に揺れていた。
彩乃の心の中には、スエコザサと母の存在が深く刻まれている。彼女はそれを大切に胸に抱きながら、新たな出発を迎えるのだった。
彩乃と拓也の物語は、まるでスエコザサのように、美しい絆で繋がれていくのだろう。
東京都台東区谷中の天王寺にある牧野夫人の墓碑には、牧野博士自作の句
「家守りし 妻の恵みや 我が学び 世の中の あらん限りや すゑ子笹」
と刻まれている。
牧野富太郎の植物図鑑
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