アメリカン・ドリームと言えば、たいていの人は、物質的な成功のことを思い浮かべるのではないだろうか。
貧しい少年少女が苦労を重ねながらも、ハリウッド映画の主人公となり、不遇から脱出して富や名誉も勝ち取っていくと言った成功の物語を頭に浮かべる人がほとんどではないかと思う。
このアメリカン・ドリームという言葉には、実は悲しい意味が隠されている。あまり語られていないことであるので、この言葉の本来の意味を捉えておきたいと思う。
歴史
1620年、イギリスのプリマスから、メイフラワー号という船が新天地に向けて出発する。乗客は102名、乗務員は25人から30人だったそうである。66日に及ぶ航海は、病気などに苦しめられた苦難の航海だったに違いない。彼らは、清教徒、ピューリタンである。イギリスにいては彼らの自由な信仰ができないと考えた彼らは逃げるようにして故郷イギリスを後にする。
メイフラワー号は、信教の自由の象徴となるのであるが、彼らはそれからアメリカの開拓の歴史に大きく関与することになる。
インディアンたちとの争いもあったことであろう。何もない所から食料を調達することは困難を極めたことだと思う。
そこで生き延びたピューリタンたちは、ニューイングランド地方から開拓を進めてアメリカの基礎を作ったと言える。
金(gold)を求めて、西部へと進んで行く。インディアンたちは住み家を失い、マニフェスト・デスティニーは、19世紀末には事実上消滅して、彼らはアメリカの地をやっとわが物にした瞬間だったと思う。
アメリカ文学史
アメリカ文学史には、ハーマン・メルヴィルの「白鯨」が、1851年に出版されている所からみても新天地アメリカは、19世紀後半には、もはや、イギリスではなく新しい国となっていき独自の文化を有する国となっていたことが分かる。
1900年には、Sister Carrie が、ドライザーによって書かれ、アメリカにおける成功と落後者の対比を軸に、アメリカ社会をリアルに描き、物質主義の中に生きる人間像が浮き彫りにされた。
この辺りから、アメリカン・ドリームという言葉が物質的な成功と置き換えられたと考えられる。ちょうど20世紀を迎えたアメリカはそこから目覚ましい成長を遂げることになる。
1620年から実に、200年以上を要しアメリカは新しい国となったと言えるだろう。
しかし、忘れてはいけないのは、WASP(White Anglo-Saxson Protestants)の存在である。オバマ大統領が黒人でアメリカの大統領になる時代であるので、WASPという構図は過去のものとなっているとの見方もあるが、元々アメリカ人などは存在すらしていないことは忘れてはならないことであろう。
イギリス人が、アメリカ人になることは所詮無理なことである。これがアメリカン・ドリームなのである。
叶えることが決してできない夢、これがアメリカン・ドリームなのである。
アメリカを語る時に忘れてはいけないことだといってよい。
もちろん、アメリカは、人種のるつぼ(melting pot),サラダボール(salad bowl)と言われるように、様々な人種が混ざりあい一つの国を構成しているのは明らかなことではあるが、その根底にはWASPが間違いなくいるのである。
結論
アメリカン・ドリームとは、物質的な成功のことで語られることが多いのであるが、その根底には、実現不可能な夢を追い求めるイギリス人から引き継いだ叶えることのできない夢のことなのである。
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