素晴らしい復讐

高校3年生の担任をしていた時のこと。

進路に関する複数回の面談、年度当初の家庭訪問に始まり、夏休み、冬休み、そして当時のセンター試験後の学校での3者面談と最低でも3~4回の保護者を含めた面談を行っていた。LHRは、1学期も終わると、自習にして廊下で2者面談を繰り返し何度も行っていた。

2者面談では雑談で終わることも多いのだが、その雑談の中に生徒たちの悩みがふと現れることもあり、無駄ではなかったと思う。家庭訪問や3者面談では模擬テストなどの資料を作り、客観的に現状を把握し、これからの課題を確認するのが通例であった。

受験は生徒一人で決めることではない。お金を出すのは保護者であるので保護者の了解なくして受験は成り立たない。その間に入って調整するのが学校(担任)なのであろう。しかし、私はと言えば、もう亡くなって久しくなってしまったが、父母と根詰めて進路の話をすることはほとんどなかった。自分が行きたい(受験したい)大学を述べて、簡単なやり取りだけで父母は口出しすることはなかった。思えば、このような私が大学に行きたいなどということ自体が尋常なことではないと思っていたのだと思う。

何しろ、学校に登校したかと思うと、嫌いな数学の授業の前に無断で早退するような問題児の典型であったからだ。私が夏休み、4畳半の自室にこもり汗をかきながら、勉強する姿を見た父は一体何が起こったのだろうと、家の外から作業をするふりをしてみていたことを思い出す。当時は、私立大学の受験料は、2万円位であったが、4、5校受けると言っても父母は何も言うことはなかった。何も言わずに10万ものお金を出してもらった。学部は文学部しか考えられなかったが、父は経済学部の出身だったが、役にも立たないかもしれない文学部の受験に関しても何も言うことは無かった。恐らく、生きているだけで良しと思っていたのだろうと思う。友だちの死を経験し、私自身が危ない状況に置かれていたことも関係しているのだろうと思う。

そんな私が父の跡を継ぎ、教員の道に入るとは人生皮肉なものだ。一番怖れていた学校という場所に職場を求めるとは。定年までは務めあげることはできなかったのあるが、私に取っては奇跡に近い選択をしたものだと思う。20年以上務めることができたのも奇跡に近いと思う。

先生に向いているかいないかを図る尺度がある。教育実習である。ここでの経験が後々教員になるかどうかを図ると言っても言い過ぎではない。私は、当時既に予備校で教えていたこともあり、かなり慣れてはいた。そして、このような者が教えることに、ついて来てくれるのが嬉しくやりがいを感じていた。教育実習の私の指導の先生は、教員の資質があると言ってくれ嬉しかったのを良く覚えている。

センター試験後の面談は、国公立の前中後期の受験先を決めなければならない大事な面談である。もう、その面談では生徒をほめてやる気を出させるような言葉かけはせず、受かりそうな大学をピックアップして提示するということを行っていた。

当時は、まだネットの普及も今日ほど整備されていなかったので、予備校から出る判定は学校の方が早かった。それだけ、学校はデータを持っており、そのデータを元に志望校を絞っていく。

ある女生徒のこと。田舎の真面目な校則違反など全くない生徒だった。父親と共に私の前に現れたが、私はこれまでの努力をたたえる言葉もなく、受かる国公立大学はありませんと言い放ってしまった。滑り止めの私立大学や短大の候補を挙げたが、私が一方的に話すのみだった。面談は10分もかからなかった。うなだれて去る生徒の姿を見ても私にはどうすることもできなかった。多分、私のことを恨んだと思う。もう少し優しく接することは出来なかったものかと、その後もその生徒と父親の姿が浮かんできたものだった。一番されては嫌なことを自分もしているのではないかと思い忘れることはなかなかできなかった。

その生徒は、私立の短大に入り、数年が過ぎた。

ある日、その当時の生徒が遊びに学校に来た時、驚くべきことを聞いた。

あの生徒は、今中学生の英語の先生になっていると。

田舎とはいえまだまだ教員の志望は多い。短大から大学に編入したのかは分からない。

ただ分かることは、彼女は私にある意味での復讐を果たしてくれたのだと感じた。

悔しかったのだろう。私を見返してやりたいたいと思ったことだろう。

卒業してからその生徒とは1度も出会うことなく私の方がリタイヤしてしまった。

あんなに嫌だった先生になり下がってしまった私自身を振り返った。

元気で立派な生徒の気持ちが分かる先生になっていることだろう。

あの時は、ごめんなさい。言葉が足りなかった。くれぐれも、私のような先生にはなってはいけませんよ。

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竹 慎一郎

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