小さな嘘。生徒には話せなかったこと。つばめの死。

little lie

高校の教員をしていた時のこと。その時私は、卓球部の顧問をしていた。試合は残念な結果に終わってしまったが、最後まで生徒たちは頑張ってくれたので、それだけでも満足だった。日本での部活動は、休日の日でも普通に行われている。休日返上でもらえる額は、1回に1000円にも満たない。そんな中で、日本の教員は生徒たちのために、家族を返りみることなく当然のように働いているのが現状である。

体育館を出ると小雨が降り始めていた。体育館の前で生徒たちが集まって何か騒いでいた。何かと思い近寄ってみると、つばめが水たまりの中で飛べずにもがいている姿が目に飛び込んできた。

誰一人と助けようとしない。スズメもつばめも家で飼うことは許されていないことは分かっていたが、私はそのつばめを手で拾い上げ、テッシュペーパーの中に入れ、車で家路に向かった。

小鳥用の餌を水で溶かして根気よく餌をやった。

少しずつ食べるようになってきたのだが、先日のスズメと同じように、巣から落ちてしまったのだろう。そのダメージはかなり大きかったことだと思う。骨も折れているかもしれない。そんな状況にありながらも、数日は餌を食べていたが、1週間で突然亡くなってしまった。庭を片足で歩く姿は忘れることはできない。巣から落ちた雛は、生き抜くことは難しいと感じた。その思いが残っていたので、先日のスズメのことも覚悟は決めていたのだがやはり救うことはできなかった。

生徒たちは私が、つばめを持ち帰ったのを知っていた。

1週間でつばめは死んでしまったと言うべきだったかもしれないが、私は今も元気にしている。飛び立てるまでもう少しだろうと嘘を言った。

その後、あのつばめは元気に飛び去ってしまったとまた嘘をついた。

生徒たちは、安心した様子に見えた。気になっていた生徒もいたはずだ。

私は、つばめを救ったヒーローになっていた。私のとった行動は正しいと生徒たちは言ってくれた。

違うのだ。私は水たまりの中で飛べずに羽をばたばたさせている、つばめの姿を見たくなかった。そしてそれを、誰も救おうとしない生徒たちが信じられなかったのだ。苦しんでいる姿をみても、傍観している生徒たちは許せなかったので、私が拾いあげたに過ぎない。救った以上助けなければならい。皆、そのことを考えると救おうとするのを躊躇してしまうのだろう。子猫や犬が段ボールの中で捨てられているのを見たことがあったが、私は救ってやることはできなかった。

しかし、小鳥なら救えるかもしれないと思った。救うこと等できなかった。

おまけに、生徒たちには嘘を言った。

あの鳥は死んでしまったと言うべきだったかもしれない。

生徒に、死という現実を話した方が良かったかもしれない。

先ほど、玄関の上を除いてみた。昨日は2羽の大きく口を開けたスズメがいたのに、今日は1匹しか見えなかった。巣の奥に引っ込んでいて元気で飛び立って欲しい。

昨日亡くなったスズメも、あの時のつばめも私の心の中では生きて飛び去ってしまったと今でも思っている。

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竹 慎一郎

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